拡大鏡(ズーム機能)を使うとこんなふうに見える

障害特性・支援機器

弱視と拡大鏡(ズーム機能)

私自身、視覚障害があり、印刷物で例えるなら26ポイントの文字がようやく見えるくらい、漢字などの細かいパーツはそれ以上のフォントサイズでようやく誤読なく読める状態です。ただ、読めるといっても紙と目の距離は10cmほどです。
身近なもので例えるなら、チラシや新聞の大見出しがようやく裸眼で見えるくらいです。
書類などに文字を書く際には手元が見えず、弱視レンズ(ルーペ)がなければ記入欄に収まるように書くどころか、自分が書いた文字も見えません。

しかし、今こうしてパソコンで文字を打ち、Webデザインの勉強をし、ゲームをすることができています。それはひとえに多くのパソコンに「ズーム機能」が搭載されているからです。

WindowsPCおよびMacにはズーム機能(拡大鏡)というアクセシビリティ機能が備わっています。これは追加の購入アイテムなどではなく、すべてのパソコンに標準で搭載されている支援技術になります。弱視のユーザーはこの拡大鏡を利用することで健常者と変わらないレベルで情報収集やパソコンの操作が可能になります。

今回の記事では拡大鏡の使い方、及び拡大鏡での画面の見え方を紹介していきます。
拡大鏡を使ってみたい方、拡大鏡ユーザーがどのようにパソコンを使っているか知りたい方に向けて書いていきます。

拡大方法の種類

拡大鏡と一口に言っても、ズーム方法はいくつかあり、その中から選ぶことができます。
以下はMacのズーム機能になります。WindowsPCも「全画面表示」「固定」「レンズ」のようにズーム方法を選ぶことができます。

フルスクリーン

画面全体が拡大されます。

分割した画面を表示

画面の一部に拡大ウィンドウを置き固定するズーム方法です。ウィンドウにはカーソル周辺の領域がズームで表示されます。画面のうち一部は通常倍率、ウィンドウの中はズームというハイブリット形式。ウィンドウの大きさは調節できます。

ピクチャインピクチャ

小さいウィンドウが開きマウスに追従します。ウィンドウの大きさは調節できます。

起動方法:WindowsPC

WindowsPCは職場や学校現場などにも多く実装されており、知っているかたも多いかもしれません。
覚えることは二つのみと言っても過言ではありません。

拡大鏡を起動する/拡大するWindowsキーと+キーを同時に押す
拡大鏡を終了する/縮小するWindowsキーと-キーを同時に押す

WindowsPCの拡大ショートカットは一度押すと起動、二度目以降は50%ずつ拡大率を上げてくれます。

自動起動やズーム方法の変更はシステムの設定、もしくは拡大鏡ツールバーの歯車ボタンから行うことができます。

起動は設定画面からも行えますが、ショートカットを覚えることをおすすめします。
ショートカットキーを覚えることでより感覚的に拡大縮小が行え、操作性が向上するからです。

起動方法:Mac

初期設定

Macは拡大鏡を初めて起動する際に設定を変更する必要があります。
ここでは画面酔いを少なくするた、ウィンドウの動き方を「ポインタが端に移動した時」に設定しています。

  1. システム設定アクセシビリティズーム機能の画面を開く
  2. 「トラックパッドのジェスチャを使って拡大縮小」をオンにする
    補足:ジェスチャが苦手な場合は「キーボードショートカットを使って拡大縮小」もオンにしておく
  3. 「ズーム方法」の項目は「フルスクリーン」にしておく
  4. 右下の「詳細」を開き、「拡大した画像を移動」項目の「ポインタが端に移動した時」を選択しOKでダイアログを閉じる
設定画面のスクショ1枚目
設定画面のスクショ2枚目

操作方法

Macはトラックパッドを操作するジェスチャで簡単に起動することができます。
トラックパッドに慣れていない時には少し難しいですが、慣れるとWindows以上に拡大縮小を素早く調節できます。

拡大鏡を起動するトラックパッド中央を三本指でダブルタップする。ただし二回目のタップは上方向にスワイプしてから離す
拡大する三本指ダブルタップ+二回目のタップで上方向にスワイプ(=起動時と同じ動作
トラックパッドで拡大するときの手元
拡大鏡を縮小する三本指ダブルタップ+二回目のタップで下方向にスワイプ
終了する縮小し続けることで通常倍率に戻る(=拡大鏡が終了する
トラックパッドで縮小する時の手元

コツは素早くタップすることです。
Macは初期設定でさまざまなジェスチャが登録されています。例えば、三本指での操作に「ページ間をスワイプ」などののジェスチャが設定されていると拡大鏡の操作と混合して素早く拡大鏡を使用できない時があります。普段使用しないジェスチャがあれば設定をオフにすることをおすすめします。

ここまでジェスチャでの操作方法を説明しましたが、最後にショートカットキーでの操作方法も記述していきます。

拡大鏡を拡大/縮小⌥(option)と⌘(command)と8キー
拡大鏡を拡大する⌥(option)と⌘(command)と=キー…と説明されているがこのショートカットで拡大できたことがない
拡大鏡を縮小する⌥(option)と⌘(command)と-キー

Macで拡大のショートカットキーが効く方は教えてください。

拡大鏡のメリット・得意なところ

  1. 画面レイアウトを崩すことなく拡大できる
  2. 設定を含むすべての画面で利用できる
  3. ユーザーによってカスタマイズできることが多い

画面レイアウトを崩すことなく拡大できる

多くのICT機器ではズーム機能以外のアクセシビリティ機能が搭載されています。テキストサイズの変更などが一番手軽にできる変更かと思います。ブラウザにもズーム機能が用意されています。
しかし、テキストサイズを大きくするとボタンからテキストがはみだしたり、見切れたりすることが多くあります。

拡大鏡はデバイスの画面をそのまま拡大表示するので、レイアウトが崩れることがありません。

設定を含むすべての画面で使用できる

アプリなどはシステムのフォント設定が反映されず文字が小さいままのことがほとんどです。特に困るのはSNS等でメッセージを発信する時やアカウント登録時に誤字脱字に気づきづらい点です。
また、アプリやソフトの設定で文字の大きさを変えられたとしてもデザインが崩れない範囲のフォントサイズしか指定できないことが多く、アプリやソフトの設定だけでは弱視ユーザーが見やすい十分な文字サイズにならないことがよくあります。

一方でパソコンのズーム機能はシステム画面も含めすべての場面で拡大ができます。

ユーザーによってカスタマイズできることが多い

前述のズーム方法が選べること以外にも、拡大鏡をどのようにカーソルに追従させるか、フォームに文字を入力する時にどのように動くか、起動時にズーム機能を自動起動するか等、たくさんの設定ができます。Macではこれらの設定に加えてショートカットなどの細かな設定も可能です。

拡大鏡のデメリット・苦手なところ

  1. 画面全体を把握しづらい
  2. 表示できる範囲が狭い

画面全体を把握しづらい

例えば初めて訪れるWebサイトを見る時、健常者の多くの方は画面全体をとらえ、そこから自分が欲しい情報を選んで見ていくことになるかと思います。
しかし、拡大鏡を使っている場合は、Webサイトを開いて最初に目に入るのはヘッダーの一部とメインビジュアルの一部です。

拡大鏡を使った時のスクリーンショット。SmartHRのトップページの左上一部のみが写っている
拡大鏡を使って見るSmartHR
拡大鏡を使わずに見るSmartHR

比べてわかるように、通常はファーストビューで「ログイン」や「資料をダウンロード」などの重要な情報を得られるのに対し、拡大鏡は得られる情報が限られています。

拡大鏡の場合はここから、ゆっくりとサイトの構造を確かめ、重要なリンクやボタンを探していくことになります。

表示できる範囲が狭い

前項目のように一度に得られる情報が少ないということ以外にも不便な点があります。
それは表示領域が少ないというところです。

例えば、アコーディオン(カーソルが上にある時にのみ展開するパーツ)があったとき、項目の端まで見ようとする時、拡大鏡を移動させるためにカーソルを動かします。その時にパーツからカーソルが外れてしまうと展開領域まで戻ってやり直す必要があります。

拡大鏡でアコーディオンを見る時の例


これは私が制作したデモサイトなので単純な構造ですが、Webサイトによっては横にさらに何度も展開していく構造の場合もあります。

表示領域の狭さは操作領域の狭さ、延いては操作のしづらさに繋がります。
アコーディオン以外にもhover(カーソルをパーツの上に乗せること)でのみ表示される情報がある場合も情報を得られない場合があります。

拡大鏡を使って大きいツールチップを見る時の例

ツールチップは短い説明文などに使われますが、しばしば長文の詳細説明が設定されている時があります。記録して問題ない画面であればhoverした状態でスクリーンショットや写真を撮るなどして文字を確認する必要があります。

おわりに

拡大鏡は誰もが使える技術です。晴眼者の方もアプリケーションやゲームでUIが細かい時、画像を目いっぱい拡大しても見づらい時、少し視力が落ちてきた時、いつでも使うことができます。
拡大鏡を使ってインターネット生活をもっと便利にしていっていただければと思います。

今回は弱視ユーザーとして拡大鏡での見え方をメインに書いてみました。
WebサイトのこんなUIが見づらいという話をしてきましたが、こうだったら見やすいという例をあげていきます。

  • 重要な見出しやボタンが左寄せにある
  • 離れた位置にUIがある場合、ボーダーなどでUIに行き着くまでの導線がある
  • 操作領域が広い、hoverし続けなくても情報が得られる
  • 背景とUIに明確な差をつける
  • 輪郭が明瞭(薄いシャドウよりボーダーが見やすい)
  • 高い明度は面積効果で眩しく見えるので、彩度明度は控えめが嬉しい
  • 文字サイズの差が大きすぎると小さい文字サイズに合わせて拡大した時に大きな文字が見切れるので、文字サイズは極端に変えない

などがあります。拡大鏡ユーザーが見やすいデザインについてもいつか記事にしたいと思っています。

次回はがもちゃんがポートフォリオサイトを作っている間に学んだことをまとめる予定です。

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